<Introduction>

 蛋白質はアミノ酸が重合してできる生体高分子で、数十~数百のアミノ酸がペプチド結合を介してビーズのようにつながっています。このポリペプチド鎖が折り畳まれることで特定の立体構造を形成すると、様々な生理活性を発揮します(例:ホルモン、酵素、受容体)。ところが蛋白質の構造安定性はごく僅かで、熱・pH・圧力などのストレスによって立体構造は容易に崩れてしまいます(=蛋白質の変性)。さらに変性した蛋白質同士は、分子表面に露出した疎水性領域を介して、不可逆的に会合しやすくなります(=蛋白質の凝集)。

 蛋白質凝集は、基本的には不可逆的な反応なので、一度起きてしまうと元には戻らないことが多いです。例えば生卵をフライパンで加熱すると目玉焼きになりますが、それを冷蔵庫で冷やしても生卵には戻りません。この不可逆的な反応は、卵白に含まれる蛋白質(オボアルブミン・リゾチームなど)が熱によって変性・凝集したのが原因と考えられます。

 バイオ産業では、産業用酵素・抗体医薬品・バイオマテリアルといった蛋白質製剤の市場価値は年々高くなっていますが、その一方で蛋白質凝集が原因とされる生理活性の低下・免疫原性の増加など、品質低下のトラブルも懸念されています。そのため、蛋白質製剤の品質管理において、蛋白質の熱安定性・溶解性・会合状態といった物性評価は重要なプロセスと言えます。

<Research themes>

 当研究室では、大腸菌を培養して組換え蛋白質を発現・精製し、熱測定や分光測定を行うことで、蛋白質の物性を定量的に評価します。また少数のアミノ酸変異を導入することで、蛋白質の構造・機能など本来の性質は大きく変えずに、凝集傾向性だけを低下させる分子設計法の開発も目指しています。

(1)蛋白質凝集を抑制するための分子設計法の開発
熱凝集の初期段階で見られる可逆的なオリゴマー(RO; Reversible Oligomer)
少数のアミノ酸置換でROを阻害し、アミロイド線維・アモルファス凝集の抑制を目指す
(例)DEN4 ED3, PSD95-PDZ3など
(これらのシングルドメイン蛋白質で、熱凝集の抑制に成功している)

(2)蛋白質ワクチンの物性解析
ウイルス由来の抗原蛋白質の熱安定性を定量的に評価する
示差走査熱量計(DSC)を用いた熱測定
(例)デングウイルス・コロナウイルス・インフルエンザウイルスなど
(エンベロープ蛋白質やスパイク蛋白質のドメイン断片を用いる)

(3)単一ジスルフィド結合を有する蛋白質のミスフォールディング
ジスルフィド結合が一本しかない蛋白質でも、精製過程でミスフォールドする
ポリペプチド鎖のねじれに注目し、ミスフォールディングの原因および阻害方法を調べる

WordPress.com Blog.